その十四 苦しみのない世界へ
お釈迦さまは、初めての御説法で、五人の比丘に対し、「四諦」の教えを説かれました。
最初に、私たち人間が持つ苦しみを明らかにされ、苦しみから離れるための教えとして、「滅諦」「道諦」、そして「八正道」について説明されました。
苦しみのない世界を目指して
お釈迦さまは、誰もが「うらやましい」と思うほどのぜいたくな生活を捨て、人間が持つ苦しみから離れるために出家されました。
その後、私たちが想像できないほどの厳しい苦行を六年間続けられましたが、それさえも捨てられ、求め続けた苦しみのない世界に至りました。
では、苦しみのない世界とは、いったい、どのような世界なのでしょうか。
そのことを明らかにしたのが、「滅諦」の教えです。
お釈迦さまは、四諦の教えの中で、「私たちが生きる世界は苦しみに満ちており(苦諦)、苦しみの原因は煩悩という激しい欲望にある(集諦)」と仰いました。そして、「苦しみのない世界とは、煩悩から離れた世界である(滅諦)」と説かれました。
つまり、激しい欲望から離れた世界に至ることこそが、私たちの理想です。
では、どのようにすれば、その理想の世界へ行くことができるのでしょうか。
正しく生きる
私たちは、日々の生活の中で、楽しいと思うことや幸せを感じることがたくさんあります。
お釈迦さまは、苦しみのない世界に至る方法(道諦)として、「八正道」を説かれました。
八正道とは、正見、正思惟、正語、正業、正命、正精進、正念、正定という、滅諦に至るための八つの正しい行いです。
正しいとは、悪いことをしないということです。たとえば、嘘の言葉や人を傷つける言葉を使うことは悪い行いです。そのような言葉を使わずに、嘘のない真実の言葉で人を喜ばせ、人の心が温かくなるような言葉を使うことは正しい行いです。これは、八正道の一つである「正語」の実践です。
嘘の言葉や人を傷つけるような言葉を使いたい、と考えている人はあまりいないでしょう。
しかし、自分を守りたい時や、いらいらしている時は、つい嘘の言葉や人が傷つく言葉を使ってしまいます。その気持ちを我慢して、正しい行いを続けることで、苦しみのない世界に少しずつ近づくことができるのです。
お釈迦さまが四諦・八正道の教えについて説き終えられると、五人の比丘の心は清らかになり、大きな喜びに満たされました。
その後、お釈迦さまは、御説法を通して、様々な人を苦しみから救っていかれました。