その四 愛するゆえの悩み
お釈迦さまが出家を決意されたころ、妻のヤショーダラー妃が男の子を出産しました。
待ち望んだ跡継ぎの誕生に、宮殿は大きな喜びに包まれましたが、お釈迦さまは、子供を愛する気持ちが、出家への妨げとなると考え、悩まれました。
ラーフラの誕生
子供の誕生は、親ならば誰にとっても喜ばしいことでしょう。
しかし、お釈迦さまは、子供が生まれた知らせを聞かれ、「ラーフラが生まれた」と仰いました。
「ラーフラ」とは、「妨げ」という意味です。なぜ、お釈迦さまは、このように仰ったのでしょうか。
それは、「子供の誕生が、出家の決意を妨げる」と、思われたからです。つまり、子供を愛するあまり、「宮殿に留まりたい」という気持ちが芽生え、この気持ちから離れられなくなることで、「真の幸福を得る」という出家の決意が妨げられてしまうということです。
このように、物事にこだわり、囚われることを、「執着」といいます。
執着するから苦しい
お釈迦さまが悩まれたように、私たちも何かに執着してしまうことはないでしょうか。
たとえば、好みに合うものを見かけると、「何とかして手に入れたい」という気持ちになります。そして、思い通りに手に入れたとしても、「いつまでも新しく綺麗なままであってほしい」と願います。
しかし、どれだけ願っても、いつかは古くなり、汚れてしまいます。そうなると、「前の綺麗な状態がよかった」「新しい物がほしい」ということばかり考えてしまいます。
また、思い入れやこだわりがあまりにも強くなり、「何があっても手放したくない」という気持ちになることもあります。他にも、楽しく幸せな時間を過ごしている時、「この時間がいつまでも続いてほしい」と思い、さらに時が経っても、「あの時はよかったのに」と、過去のことばかり思い出してしまいます。
このように、執着すると、人は苦しみを感じます。
つまり、「常にああしたい、こうあり続けたい」と思っても、この世の中はいつも変化し続けるので、自分の思い通りにならず、苦しむのです。
私たちが生きる無常の世界で、苦しみを自覚されたお釈迦さまは、真の幸福を求め、最後は出家されました。なぜ、大切な家族を置いてまで、出家する決意を貫かれたのでしょうか。そこには、お釈迦さまの高き志がありました。